◆精神障害者「不起訴9割」は誤解

法務省資料 起訴率45% 一般と大差なし

 2002/07/03: 大阪読売夕刊2社面

 検察庁の鑑定で精神障害と診断された容疑者の起訴率はすべての事件で45%、殺人でも50%で、一般と大きな差はないことが三日、法務省の資料からわかった。精神障害者の刑事事件は、犯罪白書をもとに「九割が不起訴」と言われてきたが、検察庁や裁判所で心神喪失・心神耗弱と認定された者だけを母数にした比率。実際は、責任能力があるとして処罰されるケースが多いわけで、触法精神障害者の処遇をめぐる法案の国会審議に影響しそうだ。

 法務省の集計によると、二〇〇〇年に全国の地検が精神鑑定した容疑者は二千百九十一人(93%は簡易鑑定)で、うち精神障害と診断されたのは千六百六人。

検察庁の処理は正式起訴41%、略式起訴4%で、不起訴・起訴猶予は54%(うち心神喪失19%、心神耗弱18%)だった。

 一方、交通事故を除く刑法犯の全容疑者(約二十九万人)では正式起訴23%、略式起訴7%、不起訴・起訴猶予22%、家裁送致48%。少年の家裁送致を分母から除外すると、起訴率は精神障害者46%、全体58%となる。

 殺人、殺人未遂の起訴率も精神障害者50%、全体58%。

 また各種のデータを総合すると、起訴された精神障害者の八―九割は、一審判決で完全責任能力を認定されている。

 同省は、精神鑑定の実施件数や精神障害と診断した人数を、国会質疑に備えて初めて集計した。犯罪白書は、精神障害者を心神喪失・心神耗弱と認定された者と同じであると、誤認しやすい記述になっている。

 検察庁の事件処理について森山法相は「現在の精神鑑定のあり方に重大な問題があるとは考えていない。捜査を尽くして適切な処分を行うよう努めている」と心神喪失者医療観察法案の国会質疑で答弁した。

 伊賀興一・日弁連精神保健問題小委員長は「精神障害者なら罪に問われないというのは大きな誤解だ。しかし短時間の簡易鑑定がほとんどなのは問題で、安易な不起訴が目立つ一方、世間を騒がせた事件では無理な起訴もある。詳しい実態を調査分析し、起訴前鑑定の適正化を図るべきだ」と話している。


殺人・殺人未遂事件の検察の処理状況
 (2000年、法務省資料から)
精神障害者
184人
 
全体
1471人
起訴
49.5%
  起訴
58.1%
心神喪失で
不起訴
43.5%
  不起訴
34.4%
その他の不起訴
2.2%
   
 
心神耗弱で
起訴猶予
1.6%
  起訴猶予
2.4%
家裁送致その他
3.3%
  家裁送致
5.1%

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